アルプスの印象
アルプスの山々を間近で眺めたのは、私にとってはじめての経験でした。山を中心とした観光は、天候がすべてです。今回の旅はすばらしい天候に恵まれ、また、アルプスの一番よいところを見ることができ、大変印象の強いものでした。 今回の旅を「カタログ旅行」として、次回は自分なりの「歩き旅」をしてみたいなというのが、現在の私の偽らざる心境です。
これまでの旅でも同じですが、はじめての土地は見るもの聞くものすべてが新鮮で、そのときにはよく分からずに帰ってきてから調べてみて、ああ、そうだったのかというようなことがよくあります。今回の山旅について、旅の途中で感じたこと、帰ってから調べた知識などを織り交ぜて、「アルプスの印象」ということで少し記してみたいと思います。
私が、はじめてアルプスの山々を間近に見たのは、モンブラン山域でした。シャモニー谷をはさんだ、対岸のブレバン展望台からの眺望だったので、山域の全体の様子がよく見えましたが、迫力という点ではいまひとつという感じでした。確かにすばらしいが、このくらいの風景は日本の北アルプス辺りでも見られるな、というのが最初の印象でした。槍、穂高連峰、剣、立山連峰など日本アルプスといわれる山々も捨てたものではない。このときはそんなことを考えていました。これは、その後マッターホルン、アイガー、ユングフラウなどの山々を眺めたときも同じでした。

アルプスの山々の中で何が新鮮かというと、まずは氷河の存在です。氷河は日本の山にはありません。ゴルナーグラート展望台から眺めた大氷河群、また、ユングフラウヨッホから眺めたアレッチ氷河などは感動しました。これぞアルプスという感じです。氷河は、地球の環境変化に応じて拡大と縮退を繰り返しています。1万年以上前の氷河期には、アルプスの山々はほとんど氷河に覆われていました。それが、1万年前くらいから地球の温暖化が始まり、氷河が後退をはじめました。その後、アルプスの氷河は16世紀から少しずつ前進をはじめ、19世紀の半ばにもっとも大きく前進したといいます。そして、それが現在はまた、大きく後退をはじめています。氷河の末端部を眺めるとこのような様子が分かって面白い。左の写真は、モンブランから流れ下るボゾン氷河(左)とタコナ氷河(右)ですが、いずれも100年位前には現在岩肌が剥き出しになっている地点まで氷河があったといいます。


次に、アルプスの印象として強く残ったのは、縦横に延びている登山電車、ロープウェイ網です。あればいいなと思う場所にはすべてあるのではないでしょうか。特に、アイガーのドテッ腹をぶち抜いて、ユングフラウヨッホまで電車を通したのが100年も前ということには本当に驚いてしまいます。この電車網によって登山者は容易に山の奥深くまで到達でき、それにあわせてハイキングコースも整備されているので、誰でも気軽に山旅を楽しむことができます。日本アルプスも本場に比べて遜色はないが、この山懐の深さとそこまで達するための手段に関しては、とても太刀打ちできません。日本にも立山・黒部アルペンルートのように山をくりぬいた観光ルートもありますが、他には見当たりません。やはり、山懐の大きさ、深さの違いでしょう。

さらに、アルプスを特徴づけるのは「アルプ(夏の放牧地)」の存在でしょう。雪を戴いた山をバックに、緑の牧草地でのんびりと草を食む牛や羊たち。いかにもアルプス的な風景がいたるところで見られます。しかし、このアルプも、もともとは森林だったところを切り拓いて牧草地にしたところも多く、いわば森林破壊の結果、現在の姿があるということもできるようです。ネパールの大規模な段々畑と同じようなことがいえるのかもしれません。人間が生きる過程でのやむを得ざる自然の改造だと。




以上のような印象を総合して、私はできたらもう一度アルプスの山々を歩いてみたいなと思っています。今度は時間に制約されずに、勝手気ままに。あるときは山々を見ながら気軽なハイキングを。あるときは氷河の上をより高い山を目指して。

私も今年の8月で62歳。現在の会社も来年の3月には退職しようと思っています。今までやろうとしてもなかなかできなかったこと。たとえば長期間にわたる気ままな旅行などをぜひ実行したいと考えています。ネパールのヒマラヤ街道も一番の候補なのですが、どうも国内情勢が今ひとつ不安定で来年の実現は難しいかもしれない。次の候補として、このスイス・アルプスの気ままな歩き旅というのも悪くないなと思っています。

往きの飛行機の中で「日本縦断 徒歩の旅」(石川文洋著、岩波新書)という本を読みました。北海道の宗谷岬から鹿児島市を経て沖縄の喜屋武岬まですべて歩きとおした記録です。総日数150日、徒歩日数126日という数字もすごいが、65歳という年齢もすごい。大いに元気をもらいました。さすがに、私もここまでやるつもりはないが、「おくの細道」を歩きとおすという夢は膨らんできました。これはやる気さえあればできないことではない。これから、だんだんと調べ始めようかなと思っています。

ということで、今回の「スイス・アルプスの山旅」を終わります。いつになるか分かりませんが、できればこの続編を書きたいなというのが現在の私の夢です。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


                   2004.8.8   尺取虫  記

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